シアターコクーンで上演中の
『日本人のへそ』を観に行ってきました。震災で多くの方が苦しい想いをしている中、観劇に行くことじたい、正直罪悪感のような想いがありました。でも、このような状況の中でも井上ひさしさんの想いを大切にしながら演じ続ける役者さんがいて舞台で頑張っているわけで…そう思うとやはり足を運ぼうという気持ちになりました。
ただ、列車が途中駅まで運休状態でして…バスを乗り継いだりして行ったので普段よりも1時間近くかかってしまいました(汗)。渋谷の町もいつもよりも人が少なく感じたな…。店も早期閉店するところが多かったです。
劇場ロビーには募金箱も設置されてました。
テレビ朝日が協賛しているということで
「ドラえもん募金」。私も微々たる金額ではありますが募金させて頂きました。被災地の復興が一日も早く成りますよう、祈らずにはいられません。
客席の入りはだいたい7割強から8割くらいといったところ。やはり計画停電で列車が動かず来れなくなった人や、実際に被災されて来れなくなった方も多いのではないかなと思います…。私の横はほとんど空席でしたし…。そう思うとやはり切ないです。
この日は終演後にトークショーも無事開催されました。余震続きだったので公演前には
「いざというときには係員にしたがって避難してください」みたいなアナウンスもされていたくらいでちょっとドキドキしましたが(汗)最後まで予定通り行われたことは本当によかったです。
トークショーに参加したのはピアノの
小曽根さん、石丸さん、玲奈ちゃん、辻さん。トークの時間はだいたい20分ちょっとくらいだったかな。司会はこまつ座の方が担当されていました。
小曽根さんは劇中ピアノ担当なのですが、ちょこちょこと芝居にも参加してます。ただ、セリフは一言も話してはいけないと演出家からお達しが出ているそうで…トークで質問された時に
「やっと声が出せました」とホッとした表情を浮かべていたのが印象的でした(笑)。小曽根さん、話せなかったストレス発散か…ずいぶん熱くトークされてましたよ。
今回の「日本人のへそ」、音楽担当は小曽根さんで3代目ということでプレッシャーは相当なものだったそうです。しかも小曽根さんのフィールドはジャズなので日本の音楽を創るということがとにかく大変だったとか。お父様がかつて作曲されたものを参考にされたそうで
(かつて夜11時に社会貢献高くやってた番組の音楽を担当してたらしい 笑)感謝していると語っていました。
最後に、
「こんな状況の中でもお客さんが足を運んでくれて楽しんでくれていることに感謝したい。その客席からのパワーに自分達も幸せを感じている」というようなことを感慨深くおっしゃっていたのが印象的でした。ユーモア溢れる方で面白かったです。
石丸さんは穏やかな笑顔をいつも称えていらっしゃって。こんな状況でもこうして笑顔でみんなの前に立っていてくれていることがなんだかとても嬉しく思いました。ミュージカルを多くやっている石丸さんにとって、今回の音楽劇は
「上手く歌ってはいけない」という壁がけっこう大きかったそうです。つい気持ちよくなると調子よく歌い上げそうになってしまうのでそれを抑えるのが大変なんだとか(笑)。これは玲奈ちゃんも同じだそうです。
今回の芝居では石丸さんは今までの役柄とは全く違うようなキャラクターをたくさん演じるのでそれを楽しんでいる様子。"腹巻"は4種類もあるそうな(笑)。
「これで一つ弾けたかな」と笑いながら語ってた言葉が印象的でした。今、色んな引き出しを作っている最中なんだろうなぁ、石丸さん。トークの後半では劇中で使っていた小物の扇子をひろげてオドけてニコニコしてて可愛かったですよ~。
ちなみに、こまつ座で印象深い作品は「父と暮らせば」だそうです。辻さんがこの作品の中で「父親」を演じているそうですが、横から「まだ君にはやれないよ」と言われ
「えぇ」っと恐縮してる石丸さんなのでした(笑)。
玲奈ちゃんはこの作品の中でかなり大胆な役柄を演じていますが、生前の井上ひさしさんからは
「この役は笹本玲奈しかいない」と言われていたんだそうです。一度も井上さんに会うことはできなかったそうですが、そのように指名されたことはとても幸せだと語っていました。また、日本人の役はこれで2度目ということで(笑)この作品で日本語の難しさや美しさを改めて学んだそうです。
ちなみに玲奈ちゃんも「父と暮らせば」がとても好きだそうで、辻さんに
「私は娘をやってもいいですか」と質問すると「いいよ」と即答返ってきて嬉しそうにしてました
(石丸さんは羨ましそうだった 笑)。
辻さんはこまつ座の井上作品にはたくさん出演しているそうですが、「日本人のへそ」は意外にもこれが初めての出演だったそうです。その中で一番苦労したのが駅名のセリフ。これは劇中に出てくるんですが…あれはすごいです!!
「まさか駅名で苦労する日がくるとは思わなかった」みたいなことを言っていたのが面白かったです(笑)。
最後に
「地震の直後はお客さんがほとんど来れなくなってしまって客席が寂しい状況だったけれども、徐々に皆さんが戻ってきてくれてお客さんの笑い声が聞こえてきたことが嬉しい。今大変な時だけれども舞台に立っててよかったと思った」というようなコメントをされていたのが印象的でした。
演出の栗山さんからは最初に
「皆さん、覚悟してください」と言われ皆さん稽古もそれぞれ大変な想いをされたそうですが、こうして客席から反応が返ってくることは本当に嬉しいと口をそろえて語っていました。
役者さんも、スタッフさんも、それぞれに色んな想いを抱えて舞台に立っているんだなと思いちょっと胸が熱くなったトークショーでした。
終演後、出口には
「計画停電で大幅に電車が動かなくなるニュースが出ているので気をつけて帰ってください」という貼紙がありました。私はちょうどそうなる寸前くらいに上手く乗り継ぎできたので思ったよりも早く帰れましたが…ずいぶん都内は混乱したようです。改めて震災の影響の大きさを実感した一日でした。
出演者石丸幹二、笹本玲奈、辻萬長、植本潤、吉村直、古川龍太、久保酎吉、明星真由美、今泉由香、高畑こと美、町田マリー、たかお鷹、山崎一、小曽根真以下、
ネタバレの感想になります。このような時期ですので…もしも読みたくない方がいらっしゃいましたらスルーしてください。
吃音症に悩む人たちを治療するためと称して患者たちにある芝居をするよう提案される。それは
ヘレン天津の半生。東北の田舎から都会へ出てきた彼女は様々な人々に翻弄されながら、やがてたどり着いた浅草でストリッパーの世界へ足を踏み入れる。ストリッパーとしての地位を確立させていくヘレンだったが、恋愛で結ばれたヤクザから裏切られ様々な男に譲り渡されていく。政治家の女になったヘレンだったが、そこで政治家が刺される事件が起こる。
刺された政治家は吃音症を治す医師として存在していた男だった。誰が彼を刺したのか・・・疑心暗鬼の中捜査の手が入るが・・・。
と、このような内容のストーリー。
井上ひさしさんの一番初期の作品ということで原点みたいなもの。1幕は約2時間、2幕は約1時間といった構成で…
1幕と2幕では内容がガラリと変わるのが特徴的です。1幕は劇中劇中心、2幕は劇中劇の間に起こった事件の謎解きみたいな感じで進みますが、最後の最後まで
「そうだったの!?」みたいなドンデン返しの繰り返しで。何とも不思議な作品でありました。
全体的には笑いが多い内容でしたが、ストリッパーが出てくるということでそれなりに内容も卑猥な雰囲気が多い。2幕もけっこう人間関係がピンクの雰囲気で(汗)。これは好みが分かれる作品ではないかなぁと思ってしまいました。正直、私は、石丸さんが出演していなければもしかしたら嫌悪感を持ってしまったかもしれないなと。人間の「性」の部分がむき出しになるような芝居ってちょっと苦手なんですよね。井上作品はあまり多く見ていませんが、私の中でダントツなのは「ムサシ」です。
ただ、ストリッパーシーンも彼女達の退廃的な雰囲気などをカラリと笑いで表現していたりするのは面白いなぁと思いました。また、ストリップ劇場に出てくる前説のコメディアンたちについても面白おかしく演出されているのですが、そうしていながらも彼らの
哀しくも厳しい現実が見え隠れしている歌詞がちょっと切なかったりもしましたね。卑猥なシーンの笑いの中にも彼らの抱える悲哀のような心情もあったりするのが印象的な芝居でした。
そういえば、ビートたけしなんかも浅草のストリップ劇場でコメディアンやってたんですよね。今の地位に来るまでに様々な苦労を体験してきたんだろうなとちょっと想いを馳せてみました。
小曽根さんのピアノ!2-3年前のジルベスターコンサートでラプソディ・イン・ブルーを弾いていた小曽根さんのピアノに感動したのですが、こうして生で演奏を聞くことができることがまず感激でした。1幕はミュージカルに近いくらい曲目がたくさんあって、小曽根さんのピアノも大活躍だったのですが・・・素晴らしく魅力的な演奏でした。ところどころで芝居に参加してコミカルな場面もあったりして面白かったです。
玲奈ちゃんはお芝居が素晴らしかったです。1幕の田舎娘っぷりは…玲奈ちゃんが演じているとは思えないくらいの化けっぷり。東北弁を駆使した前半の世間知らずな女の子。いつ都会の毒牙にかかってもおかしくないみたいな(汗)。そんな彼女がストリッパーとして自分の地位を確立した後の変化の芝居がメリハリ効いててとてもよかったです。
さらにビックリしたのが2幕の玲奈ちゃん。まるで極道の女みたいなあの貫禄ある立居振舞いに思わずゾクリとしてしまいました。素晴らしい表情の芝居。いやぁ、本当にいい女優さんになりましたねぇ。井上ひさしさんが彼女をこの役に指名したというのが分かる気がしました。
辻さんをはじめベテラン役者さんたちの弾けたお芝居もとても魅力的でした。特に辻さんのコミカルな芝居は今までてあまりお目にかかったことがなかったのでとても新鮮です。トークショーにも出てきた駅名セリフは素晴らしいですよ。一見の価値ありだと思います。
そしてお目当ての
石丸さん、いやぁ、劇団四季にいたら絶対にできないような役柄の連発(笑)。今まで体験できなかったことをとにかくたくさん自分の中に取り入れたいといったような石丸さんの心意気を感じました。特に冒頭のヘレンの父ちゃん役は衝撃です(笑)。カクカクした怪しい動き、挙動不審なキャラクター、そばに寄ってきたら逃げたくなるようなメイク、汚れ役です、まさに。本人もすごく楽しんで演じてるっぽい。
その後も、ちょっと○な洗濯物干し、泥棒コメディアン、そしてヤクザ者と
変幻自在。一番かっこよかったのはやっぱりヤクザのお兄ちゃん役かなぁ。非常に魅力的でございました。ヘレンが一目ぼれしてしまうのが納得です。それでもこいつはかなりの軟派者で小心者だったりする。つまり小者。その情けなさも上手く表現。
2幕にはいると全くこれまでのキャラとは一変。サスペンスタッチのストーリーに変わりまして、何か腹に一物抱えているかのような青年。これまでの展開は実は…といった難しい役どころなんですけど、そのあたりの切り替えも上手く演じていたと思います。
とにかくこの芝居は、石丸さんの七変化を楽しむには最高の舞台。新しい石丸さんにたくさんであえたのがとにかく嬉しい!これからどんどん役の幅の広い役者さんになっていってほしいです。きっと今が一番楽しく充実している時かもしれませんね。
この芝居は「吃音症」が一つのテーマになっていましたが…吃音症と言えば、アカデミー賞を受賞した映画「英国王のスピーチ」。同じ時期に同じような作品を見たことになるのかな、私は。
そして、この物語の舞台の一つに東北がありました…。東北から出てきた女の子の物語…。彼女は強く逞しく生き抜いていました。震災の被災地が、彼女のように強く逞しく、新たな一歩を踏み出すことを祈ってやみません。
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ジャンル : 学問・文化・芸術
テーマ : 観劇
『日本人のへそ』における石丸さんの熱演は素晴らしかったですねぇ。
劇団四季にいたら絶対に見られないような石丸さんが満載でした。
色々な役柄にチャレンジしてまた一回りも二回りも成長されたような気がします。
小曽根さんのファンタスティックなピアノも最高でした!
あれだけアクションしておいてよくサラリと弾きこなせるなぁと感動するシーンもあったし。
色々と発見の多い公演だったと思います。
地震の直後で行くことじたいにためらいもありましたが、結果的にはやはり
足を運んでよかったなと思いました。
「ヘヴンズフラワー」はストーリーの内容的に、やはり、当分の間放送できないでしょうね。残念ですが仕方がないことだと思います。また新しい石丸さんを楽しみに待ちたいと思います。